慶應大学・岸博幸氏が「政策カフェ」で語った 「政府の成長戦略、雇用、農業、経団連の問題点」

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昨年の20点の成長戦略から比べれば、新たな成長戦略は50点と頑張った

7月の「政策カフェ(文月)」のゲストスピーカーの1人は、慶応大学の岸博幸氏だった。
冒頭、直前に発表された政府の成長戦略の評価から始まった。
「先月政府は新しい成長戦略を発表したが、今回の成長戦略は頑張ったと思う。中でも特に政府は頑張った。昨年作った1年前の成長戦略は、非常に出来が悪かったが、それが海外からボコボコに批判されたという事もあり、今回はだいぶ頑張ったと思う。
しかしそれは、第1歩に過ぎない。例えば、法人税一つをとっても、日本は35%。アジアの他の国では25%を切っている。そうした中、政府は20%台にすると提示した。ただ、役人的には20%も25%も29%も20%台なので、あまり極端な事にはならないと思う」
岸氏は、アベノミクスのこれまでの評価と今後の成長戦略の課題をこう話した。
「アベノミクスの金融緩和、財政出動はうまくいったが、しかし、長期的な成長のためには生産性を上げざるを得ない。安倍政権は、ここに踏み込んでくれた。この事は評価できる。
ただ、農協の改革もJA、全中で留まっていて、大規模農業の参入などの規制改革にはまだ遠い。教育、雇用制度もまだまだ課題がある。そういう意味では、昨年の経産省主導の成長戦略が20点だったものが、今回は50点になったというようなもの。農業、医療、雇用など、まだまだと言える」

成長戦略で考えなければならない一つは、雇用制度改革

また、国際比較の中から見た雇用制度の課題を、ワールドカップを例に挙げながら、紹介してくれた。
「自分が持っている問題意識の点について、いくつか紹介しておくと、雇用制度の改革について、もうすこし踏み込まないといけないと感じている。例えば、サッカーのワールドカップ。始まる前に、いろんなメディアが、『日本はベスト16、ベスト8には行ける』と言っていたが、結果は、世界ランキング通りの予選敗退となった。
先進国でベスト4に残ったのは、ドイツとオランダだった。サッカーはダメだったけど経済がどうかと言えば、アベノミクスである程度いい方向になり、テレビでも『サッカーはアカンかったが経済は日本の方がいい』と言っている人がいて、馬鹿野郎と思って調べてみたら、肯定的なデータも出てきた。
日本の2013年の実質GDP成長率が2.3%だったのに対して、ドイツの2013年の実質GDP成長率は、0.5%、オランダにいたっては、▲0.8%だった。しかし、現実的な生産性という観点から見ると状況は大きく異なる。日本の実労働時間の平均は1,750時間。それに対して、ドイツは1,200時間と日本人の方が2割強長く働いている。このため、1時間当たりの日本のGDPは、約40ドルになるのに対して、ドイツやオランダは約60ドルになる。
これを見ると、ワールドカップでベスト4になったけれど、経済を見てもドイツ、オランダの方が、一人1.5倍稼いでいる事が分かる。色んな要因あるが、ドイツもオランダも雇用制度改革をやっている。同一労働同一賃金、雇用規制の緩和、倒産法制も行った。そういう改革もやった成果であり、教育訓練、社会機会を与えられている。規制改革とともに、こうした教育訓練の機会を保障するような振興策を両方やった事が機能したと言える。
今回のワールドカップではドイツが優勝した。ドイツは、国際大会で惨敗した事を受け、立て直しに、国の認めたサッカーのコーチを全国に配置し、6歳ぐらいの子どもから教えて、小さいうちから各クラブが育てる仕組みを作った。
雇用制度改革についても、ホワイトカラーエグゼンプションなどが言われているが、同時にハローワークが教育訓練を整える必要がある。これで本当に生産性があがるのかという事を考えると、ワールドカップ同様にベスト4をめざすためには、もっともっと大きな変革を行っていく必要がある」

農業にも可能性があるのにもったいない

「雇用だけでなく、農業についても同様の事が言える。長野県で友人と農業も行っている。八ヶ岳の近い所なのだが、そこも他の地域と同じ様に地元の農協が強い。ただ、そんなところにも、脱サラして東京から来て農業を始めている人がいる。企業のサラリーマンをやってきた人は、生産性が高い。
例えば、レコード会社の社長を辞めて農業を始めた人がいるのだが、ハイエンド市場にターゲットを絞った手法が当たり、実際に結構売れ出している。大型化というのは、ある意味で安く一杯売るという事だが、ハイエンドの金持ちというのは、一つの可能性と言える。こうした事も含めて、色んなビジネスモデルを生み出せる可能性があるのに、非常にもったいない状況になっている。本来、こうしたものこそ地方の成長戦略にできるはずだと思う」

地方や民間こそが、新しい改革のモデルを作っていく必要がある

「国家戦略特区の活用も含め、大阪がいろんな事を提案している。学校についてもそうだが、文科省は、ほとんど因縁に近い事を言ってくる。法人税も下げようとしているが、どうなるか分からない。大阪以外にも野心的、先進的な自治体が、法人税を下げると言っているが、所管する役所からは、言われのないイジメを受けている。こうした事を考えていくと、冒頭に話した様に、政府の成長戦略は、だいぶ進化したが、まだまだやらなければ行けない事だらけだと言える。
消費税が4月に上がったものの数字がようやく出始めた。こうした中で、今のアベノミクスのままで、消費税が10%に上がるという方向が決まる。景気の浮揚、金融財政に成長戦略と考えていかなければならないが、そのためには民間とか地方が言っていかないとダメだ。国家戦略特区の要項の募集が8月の末まで行われている。いろんな事を仕掛けて地方から出る様に仕掛けているが、ドンドン提案して、チャレンジしてもらいたいと思う。
こうした事を進める事が安倍政権の成長戦略を応援する事にもなる。成長戦略のメインは地方と言われ始めた。露骨な統一地方選対策というのも下品だと思うが、本当は必要。やっちゃうところ、例えば震災被災地のような所で改革のモデルができるのであれば、それならそれでいい。いい方向で動いているのは間違いない」

新聞報道がヒドい、経団連が悪い

会場で行われた質疑応答についても紹介しておこう。

Q: 昨年の成長戦略が20点で、今年の政府の新たな成長戦略が50点になったという話があったが、このまま自然体でほっておくと、どうなるのか。成長戦略と言ってもせいぜい50点でしかない。進んだと言っても作文レベル。全てが計画になっただけという段階でありながら、「今回の成長戦略はいい」と評価され過ぎた事で、逆に、油断してバラマキなど他の方向に行かないかと危惧しているがどう思うか。

岸: その部分で言っておきたい事がある。最近は新聞報道がヒドい。特に日経新聞がヒドい。記者クラブにいったものがそのまま掲載されている。例えば成長戦略が退化する可能性についてだが、地方何だか本部というのができた。事務局が国交省、厚労省、文科省など。名前を挙げてしまえば、国交省補佐官も官邸も、内情は言えないが、政権は緩んでいる。その理由にはメディアの甘さがある。
例えば、テレビの番組で経済議論する番組がない。視聴率が取れない。経済の問題をやるとガーっと下がる。集団的自衛権もそう。それが地方議員のセクハラ発言や泣き叫び等をやると視聴率が大きく上がり、「野々村祭りだぁー」と盛り上がる。新聞も経済はもう大丈夫だろう、政権が自民党に戻って大丈夫だろうという部分があり、記者クラブへの垂れ流しの記事ばかりになっている。この部分を改善しないとマズいと思う。

Q: 規制改革と言うと最終的にどういう風になるのか。最終的にはアメリカ側が何かを言ってきたりという事などがあるのか。どうしても改革できない、ドリルで穴が空かない場合はどうなるのか。また、金融政策に関しては、1,000兆円を超える借金がある。金融機関をいかに回していくが重要であり、GPIFについてなど、この辺りをどう考えるか。

Q: バブル崩壊後、構造改革を行ってもなかなか景気回復しなかった。自由化や民営化は、デフレ化では逆効果という人もいるがどうなのか。また、法人税減税しても、株主への配当や内部留保に回ってしまうが、それはどうか。

Q: 役所の予算は、単年度予算。政策評価、本来の効果どこまでメスが入っているか分からないものに沢山の税金が使われる。偽りの説明責任であり、経年で3年なら3年、4年なら4年で行うべきかと考える。もの凄くムダに思えるが、どんな方法論があり得るか。

岸: 規制改革や構造改革をしていると、「そもそもアメリかの陰謀だ」と言う人がいる。アメリカが規制改革をやれば、日本も同じ様にやればいいかと言うとそうではない。理由は簡単で、国民性など、あらゆる事が違うので、アメリカがやっている事が、そのまま日本で上手く行くというものでもない。アメリカは自分勝手な国なので、これはどこの国もそうだが、日本代表で交渉を担当した事もあるが、どこの国も自分の国の利益しか考えない。
日本は制度改革、振興策どちらも、日本型のどういう形を作るかが重要であり、政策議論その部分が弱い様に思う。政策と話が外れるが、私自身、エイベックスという会社の役員もしていて、色々学んだ経験から少し話をしたい。音楽は今、CDよりネット配信という時代になった。ネット配信のビジネスモデルは、ほとんどがアメリカのものだ。しかし、アマゾンやアップルのモデルが成功するはずないし、実際に成功していない。実はビジネスも政策も色んな分野でクリエイティブにならないといけない。
デフレ脱却で、いかがわしい話をしている人もいるが、デフレ脱却と成長の話を混同しているのではないかと思う。個人的には、デフレ脱却は金融政策で出来ると思っている。しかし、デフレの対応で金融緩和や財政出動を行っても、これは需要を増やすだけで、短期的にはこれでいいが、長期的な解決にはならない。その観点から言えば、構造改革が必要だという事になる。
需要喚起だけでは、生産年齢人口1995年から減っており、資本ストックも増えないし、長期の増加はない。その意味では、財政出動と金融緩和だけやっていればいいという事にはならない。テレビでいつも罵倒している人がいるが、そこを分ける必要がある。

岸: ただ、日本経済が調子悪いと、「政策や政治が悪い」という話になるが、本当に政策や政治だけが悪いのだろうか。同時に民間企業の努力が必要で、民間や地方の責任も大きい。これだけ内部留保をため、300兆円にまで膨らんだ。この異常な内部留保を貯めて、賃上げという政策には問題がある。こうした事を大企業の経営者は考えていく必要がある。
日本最大の抵抗勢力は経団連だ。これを何とかしたい。経団連系の大企業は、政府に甘えるが、音楽業界はもともとヤンキー上がり。AKBがなぜ売れているかと言えば、色んなイノベーションを起こしている。エリート育ちのおっさんばかりでは、結果的に内部留保を貯めてイノベーションが起きない。むしろ中小企業に活躍するチャンスがある。麻生財務大臣は、1年に1度くらいいい話をするが、「法人税減税しても内部留保に行くだけ」との発言、その通りだと思う。
結論から言えば単年度予算で非常にいい加減、チェックをするのも同じ役人。上場法人であれば監査法人がチェックする様に、同じ役人ではなく民間的視点から本当にチェックする視点を早く入れていかないといけない。とくにいい加減なのは補正予算。効果などあったものじゃない。例えば、足を引っ張っているクールジャパン。テレビ番組に字幕をつけるというのを頑張っている。この予算に、如何わしい会社がたかっている。
例えば、アメリカでドラえもんをやる事になった。どら焼きは、健康に良くないから止めようとやっているが、グローバルに媚びた変なドラえもんになってしまった。例えば、東南アジアや中国で若者が日本語を勉強するのは、アニメや漫画が日本語だからだ。
この他にも補正予算は無茶苦茶だ。1,000億円で大学にファンドを置くというものもある。ようはイノベーションに関する予算だが、産学イノベーションプログラムを大学内の経験にしようというもので、これを学内政治に使おうとしている。当然、効果は絶対にゼロだ。こうした事も含めて、安倍政権はバラマキになってきている。

NPO法人 万年野党では毎月「政策カフェ」を実施している

今回は、7月に行われた「政策カフェ(文月)」から、ゲストスピーカーの岸博幸さんの話を紹介した。
NPO法人 万年野党では、こうした政策通の著名人をゲストに、毎月、政策談義を行う「政策カフェ」を実施している。
今月は、8月29日(金)19時~21時に虎ノ門のレストランで、「政策カフェ(葉月)」を行う。
今回は、ゲストスピーカーとして、WBSなどでも御馴染みのロバート・フェルドマン(モルガン・スタンレーMUFG証券㈱・チーフエコノミスト)、元財務省で、税と社会保障の問題などを専門とする小黒一正(法政大学准教授)から秋以降の経済政策についてなどお話しいただく予定。
この他にもゲストとして、磯山友幸(経済ジャーナリスト)、原英史(株式会社政策工房社長)の参加が確定、毎回直前になってもゲストが増えますが、研究者・ジャーナリスト・官僚などの政策専門家や、政策通と言われる国会議員などにもお声をかけている所だ。
募集人数30人限定で、毎回、会場が満席になっておりますので、お早めにお申し込みいただきたい。

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特定非営利活動法人「万年野党」
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